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祥子先生今昔物語

祥子先生の今昔物語

何も語らなかった人と勇敢な女戦士達

2018-05-01

 昔昔の話しです.稲妻が横に走る片田舎に赴任したことがあります.そこで一人の患者さんが独りぼっちで天に召されました.その方との最初はその3ヶ月前にさかのぼります.

 

 3ヶ月前のある日,医局長が言いにくそうに,一人の患者の主治医になってくれと頼んできました.その方はストレッチャーで他の病院から転院してきました.間髪をいれず誰にも見られないようにして急いで個室へ運ばれました.

 

 その方の部屋に入るときは頭から足先まで完全防備でマスクをします.採血は看護師に行わせることはせず,医師がやります.看護師さん達はその方が触れたもの,シーツやはてはベッドすら破棄する計画を立てています(注:現在はそこまでする必要は全くないことがわかっています)

 

 世界中を騒がせた脳の感染の病気です.発症して半年も経っていないのに,もうこの方は脳が命令できず,歩けません,食事ができません,話せません.手足を動かせません.恐らくこの方の命は後3ヶ月ももたないことがわかっていました.

 

 誰もがこの方の病気に慣れておらず,というか誰もが初めてみる病気であったため少しおどおどしていました.私はこの方のうれしい顔や悲しい顔,怒った顔を知りません.私はこの方がどんな声なのか知りません.このような状況で殿部に床ずれができるのにそう時間はかかりませんでした.床ずれの出血部位の血液が私達の目や鼻,口に触れたら私達も感染します.

 

 私は看護師さん達が最初少しおどおどしていたため,その処置をするのを嫌がるのかなと思いました.でも彼女達はすごかった.もうおどおどなんかしていません.完全防備の上にゴーグルで目を保護し,数枚重ねのマスクを着け,合戦にいどむように,私と一緒に毎日その感染の元となる血液に向かっていきました.治すことはできなかったけどそれ以上の悪化を一生懸命防ぎました.

 

 この方の命が後1ヶ月となった時,脳が負けたくないと最後の抵抗を示すある症状が出現します.このとき,さらにすごい一人の女戦士が登場,戦いに挑みます.次の女戦士の話,是非次回読んで下さい.

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