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祥子先生今昔物語

祥子先生の今昔物語

22年前の彼女への手紙 No2  ― セラチアという菌 ―

2017-10-10

 あなたに栄養を確保するためすぐに指導医の先生は太い静脈から点滴を始めました.あなたは必死で点滴は嫌だと抵抗しましたね.なかばあきらめてもらったのよね.でも入院前に指導医の先生が予知したこと,「お嬢さんはとても重症ですよ.」の言葉は的中しました.入院後すぐに重症の肺炎を合併してしまいましたね.指導医からの点滴治療の指示を仰ぎながら,私は毎日気がきではありませんでした.夜もアパートで落ち着かず,実はどきどきしていたのよ.ごめんなさい,そんな中,土日の医局旅行があったんです.
 
 土曜日仕事を終えて宿泊先へ向かうため病院をでる時に,あなたに高熱がでてしまいました.もうとてもどきどきしました.当直の先生がいらしたので報告申し上げ,旅行先のホテルに泊まりました.でもだめでした.あなたから離れていると私が落ち着きません.病院へ戻りますと伝えて日曜の早朝,ホテルを出ました.
 
 病院へ着きすぐにあなたの元へ駆けつけました.不安は的中し,更にかなり高熱になっていましたね.ほっておいて出かけてしまってごめんなさい.無力の私はあわてて当直の先生を探しました.その先生に経過を報告し,すぐに診ていただけないか頼みました.先生はカルテとデータをご覧になられて,このまま経過観察しかないという指示だったのです.
 
 どうしよう,どうしよう,どうしよう,この言葉しか私にはありませんでした.彼女を襲っている肺の中にいる細菌はセラチアという菌でした.彼女の意識がなくなったのはその翌日です.セラチア菌は肺から血管の中に進入しました.血流にのってセラチアがばらまかれるのは一瞬です.全身の臓器に運ばれそこで猛威をふるいます.指導医の先生方が選ばれた次の手段は,呼吸が苦しいのでお薬で意識を落として自分の呼吸を止め,気管の中に管を通して強制的に機械による呼吸をさせ酸素を送る方法でした
 
 私には初めての経験でした.私がとても頼りなかったことごめんなさい,再びあなたを目覚めさせるまで,私から楽しいことは消えました.一生懸命頑張ってくれてありがとう.眼があかない中,手が動き何かジェスチャーできるようになり,それが,喉が渇いた,水がほしいと言っていることだと私にはちゃんとわかったのよ.もう少し,あと少しでセラチアに勝てる,そう感じたの.でもあなたは私の方をみないで,はるか向こうをむいてしまった..........
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